一本の電話で命をつなぐ新たなヒーロー誕生!

突然だが、119番に電話をしたことはあるだろうか。わっちは今まで生きてきた人生の中で3回救急車を呼んだ経験がある。いずれも自分自身の具合が悪くなったわけではなく、目の前にいる人が緊急事態にあると判断して呼んだものだ。「119番消防です。火事ですか、救急ですか?」と応答されると一気に緊張が走る。なにせ、119番に電話などすることなどほとんどあるわけもなく、結構ドキドキしながら電話をしたことを覚えている。
そしてフジテレビ系列で今年1月から月9ドラマ枠で放送が始まった「119エマージェンシーコール」。今年の冬ドラマで唯一、見続けている。消防の通信司令センターを舞台に繰り広げられる指令管制員たちの人間模様が描かれ、まさに119番に電話をかけた通報者と指令管制員のやりとりがメイン。その電話のやり取りを通じて、人の命をつなぎ、火事や救急事案を解決していくものだ。舞台が通信司令センターであり、火事や救急の現場が描かれる場面は少ない。わっちがイチ押しするTBS系の「TOKYO MER 走る緊急救命室」など消防をテーマにしたドラマや映画は数多くあり、緊迫した現場の様子が次々と展開されていくことが多いが、それらとは一線を画した本ドラマは119番通報の最前線に立ち、救急車や消防車を適切に司令する「見えないヒーローたち」の奮闘を伝えてくれる。
主演は清野菜名大先生演じる新人指令管制員・粕原雪(かすはら ゆき)。元銀行員という異色の経歴を持ちながら、ある出来事をきっかけに消防の世界に飛び込み、成長していく姿が描かれていく。彼女が様々な経験を通じて「声で命を救う」仕事に向き合いながら成長していく過程が大きな見どころの一つだろう。清野菜名さんといえば、アクションの多い役柄が思い浮かぶが、本作では「声」だけで人を救うという、これまでのイメージとはまったく異なる演技が新鮮で初々しい。さらに雪の指導役であり、厳しくも頼れる先輩指令管制員・兼下役に瀬戸康史、冷静沈着な司令課3係の係長・高千穂役に中村ゆり、伝説の指令管制員と呼ばれる大ベテランで雪たちの精神的な支えとなるレジェンド・堂島役には佐藤浩市とベテラン俳優から若手俳優まで、実力派キャストが勢揃い。こうした豪華キャスト陣がそれぞれの役割を通じて、命を救う最前線での葛藤や使命感をリアルに描き出しているところが本作品の魅力の一つだろう。
第6話ではタクシー車内で破水した妊婦の夫からの通報がメインの話だった。慌てて通報してきた夫と指令管制員とのやり取り。早産の赤ちゃんの頭が出てきている状況から、車内での出産を指示する指令管制員。泣き叫ぶ妊婦。応援の声をかけつづけるタクシー運転手、そして無事に生まれてきた赤ちゃんの泣き声。この間、タクシー車内での映像は一切無く、指令管制員たちの表情や声だけで映像がつながれていた。音声だけを頼りに、どのような状況なのかを想像するしかない。確かに映像は視聴者にとってインパクトがあり、迫力もある。
一方、音声だけでは映像がないので、現場の様子はわからない。ただ、時に自ら想像することで、状況を頭の中に描いてみる。100人いれば100通りの情景が頭に浮かぶと思うが、音声だけを頼りに映像を想像するのも悪くないものだ。本ドラマの中では、清野菜名大先生は人並外れた聴力の持ち主という設定で、夜勤明けに通報現場を訪れ、耳に手をやり通報時の様子を想像するシーンが何度も出てくる。映像は無く、音声だけの状況下では想像するしかない。次はどうなるのか、どうしたらよいのかを考えること。このようなことは指令管制員のみならず、人として生きていく上では改めて重要なことだと思い知らされる。
実は天下のNHKでは、「エマージェンシーコール~緊急通報指令室~」というノンフィクション番組が2022年から不定期で放送されており毎回楽しみにしていた。こちらは完全なリアルな通報なのでドラマとは違う独特な緊迫感が常に漂っている。一本の電話の先には命の危機がある。街を行く救急車や消防車の背景にはわっち達が知らないシリアスな電話もあるのだろう。リアルな緊急事態の切迫感が伝わる緊急通報指令室。次回の放送が待ち遠しい。